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 政府税制調査会は、11月18日に第11回全体会合を開き、そこで納税環境整備PTから「納税環境整備PTにおける検討状況について」という文書が提出された。
 今後、税制調査会で検討されるが、ごく限られたPTメンバーの密室での検討結果が、今後の政府方針を拘束するとすれば問題だ。

「検討状況」を要約すれば-

 (1) 国税通則法に「憲章」策定の根拠規定を設け、記載すべき事項を法定化する。
 (2) 通則法について、①目的規定を改正し、納税者の権利保護を図る趣旨を明確にする、②税務手続き明確化等に関する規定を通則法に集約する、③法律名を変更する、の改正を行う。
 (3) 租税教育の充実に努める。
 (4) 調査事務手続の明確化・法制化。
 (5) 理由付記を原則として全処分について実施するが、白色申告者に対しては記帳・帳簿保存義務の拡大を併せて実施。
 (6) 番号制度について、「社会保障・税に関わる番号制度に関す実務検討会」の制度設計に期待し、税務面でも番号制度の有効活用(①法定調書拡充、②電子データ提出義務付け、③税務情報のプライバシー保護の徹底)に向けた方策を積極検討する。番号を税務に利用する場合、①悉皆付番、②一人1番号、③民-民-官での利用可能性、④目に見えること、⑤最新の住所情報との関連という条件を満たす必要がある。
 (7) 更正の請求と国税不服審判所の改革については、検討中。

 策定を国税庁に一任

 「憲章」は、法的根拠のある公文書で定めることを予定しているが、「納税者の権利・義務をバランスよく記載する」とし、権利保護の議論に義務を持ちこんでいる。策定を国税庁に義務付けることで、記載事項を法定化するとしても、記載は執行機関(国税庁)に委ねられる。これでは、課税庁よりになることが心配だ。


調査手続きで課税庁に法的裏付け
事前通知は「原則」がついて現状と変わらず

 通則法に各種税務手続明確化規定を集約するとするが、その例示として、①税務調査における事前通知・終了通知(新設)、②質問検査権規定の集約、③税務調査終了後における調査内容の説明、④修正申告等の勧奨(新設)、⑤税務調査における物件預り・返還等に関する手続(新設)、⑥更正の請求期間の延長、⑦処分の理由付記をあげている。
 具体的には、調査手続について、「透明性と予見可能性を高める観点」から「原則として事前通知を行うことを法律上明確化する」とし、事前通知を文書で行うとするが、事前通知義務に例外を認めている。「①正確な事実の把握を困難にするおそれや、②違法若しくは不当な行為を容易にし、又はその発見を困難にするおそれ等があると認められる場合は事前通知を行わない」としている。
 課税庁がそう判断すれば事前通知をしないでもよいわけで、これでは、現状を容認することになるだけ。
 なお、終了時の手続は、「調査結果を簡潔に記載した文書の交付」が考えられているが、その内容は、①修正・期限後申告の慫慂文書、②調査終了通知書、③申告是認通知書の交付であり、①、③は現行のものと変わりが無く、②は修正・期限後申告書提出、処分決定後に交付されるので「調査結果通知」ではない。③は交付後も「再調査ができる」としており、いずれも納税者権利保護の実効性に乏しい。
 かえって、課税庁の申告慫慂の行為に法的根拠を与え、また再調査を法的に明記明示することには問題がある。
 また、物件の預かり証等の法定化は、質問検査権を拡大する意図が含まれている。すなわち、「質問」「検査」に加え、物件の「提示」「提出」までを明文化しようとするものである。

憲章に盛り込まれなくてはならないもの

 これまでの納税者権利憲章制定運動が求めてきたのは、①事前通知を受ける権利(代理人を含む)、②調査日時変更の権利、③代理人の立会の権利、④調査理由の開示を受ける権利、⑤不当な調査を受けない権利、⑥具体的で詳細な調査結果通知を受ける権利、⑦重複調査を受けない権利、⑧反面調査制限の権利、等である。
 これらが全く欠落している。いずれにしても、「検討状況」は問題が多く、課税庁に多くの「権利」を与えようとしており、抜本的な見直しが必要である。
 また、「検討状況」は、徴収手続に関する納税者の権利については、全く欠落させており、この点でも再検討が求められる。

白色申告者に記帳・帳簿保存義務

 処分の理由付記に関して、白色申告者(所得300万円以下と無申告者)への理由付記は25年1月実施として、記帳・帳簿等保存義務と連動させている。記帳・帳簿等保存義務の拡大を企図し、さらには特例として「記帳実態」に応じて理由付記をするとしている。これも課税庁の判断次第となり、理由付記と内容を巡って紛争が起きることは避けられない。こうした手法は、記帳・帳簿等保存義務拡大の意図だけしか読み取れない。消費税や相続税等の処分の理由付記には触れていないが、どうなるのだろうか。

歴史的意義あるが、運用次第

 憲章の制定はこれまで運動の反映であり、歴史的意義を持つ。ただ、納税者に新たな負担を課す措置があり、内容の不十分さもあり、さらなる運動が必要となる。民主主義の発展過程と見れば、実際の運用は納税者の権利意識の発展と課税庁の成熟度に委ねられることになる。みんなで勉強し、真に有用で使えるものにしたい。