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 28年度税制改正で、加算税の加重措置が創設され、29年1月1日法定納期限到来分から適用される。
 この措置については、この「税金ウォッチ」コーナーの№75、76で2回にわたり取り上げた。
 そうしたところ、税理士向けの専門雑誌である「税理」が2016年7月号で特集を組んだ。
 「加算税見直しを踏まえた賦課要件の検討と対応」と題してあるので、深い議論が展開されているのかと期待したが、中身は改正点の紹介と税理士としての対応方法をノウハウ的に述べているものが多く、しかもほぼこぞって改正を「歓迎」している。
 正直これにはがっかりした。そこで少々水を差しておきたいと思う。

<危ない時代の嫌な流れ>
 加算税の加重措置という行政罰の強化が、たいした理由もなく提起され、たいした議論もなく成立した。この国の民主主義はどうなっているのか心配になる。
 隠蔽・仮装という悪質な不正行為による過少申告や無申告だから、制裁強化は当然であり、牽制効果を上げるために良いことだから歓迎だというのが、どうやら世間の流れのようだ(「税理」2016.7月号の特集)。
 そんな単純なことでこの改正を受け入れていいのか、というのが問題意識としてある。

 北朝鮮や中国のように悪質な不正行為を働く者がいるので、集団的自衛権の行使という抑止力を強めて牽制するのだという論理と妙に重なってくる。
 集団的自衛権行使が違憲ながら成立したわけだから、安倍さん流にいえば「抑止力」となるはずだ。しかしである。成立後も北朝鮮はミサイルを国際法に違反して打ち続けている。
 死刑制度をみると、最も悪質な行為者に対しては更生を認めず、その存在を強制的にこの世から消し去るというものである。これは究極の刑だ。これで被害者の恨みと関係者の納得と社会の安堵を図るということだろう。では死刑制度が殺人事件の抑止力になっているのかというと、各国の統計でみても「抑止力になっているとの確証はない」となる。
 「抑止力」とは、戦争法や死刑制度を見てもわかるが、その効果は怪しい。
 にもかかわらず、罰は重い方がいい、「抑止力」は強い方がいいと、深い議論もなくなんとなくこれを受け入れてしまうのは、何らかの「誘導」に乗ってしまうからではないだろうか。大衆に迎合した「誘導」と同じ土台にあるといえる。これがすんなりいく背景には、分配がうまくいっていない格差社会の進行という世情があると私は見ている。歴史を見ると、こうした世情は危ない時代である。

 さて、話を加算税の強化に戻そう。
 昔に読んだ本で著書が思い出せないのだが、加算税の牽制効果について論じたものがあった。確かアメリカだったと思うが納税者の反応調査も行ったうえでの論文で、何%の加算税を設定すれば納税者は脱税をしないかというものである。
 結論は脱漏額すべてを没収する税率を設定しても、脱税はなくならないというものだった。100万円を脱税した。本税が30%なら70万円が所得として残る。この70万円をすべて加算税として没収するので加算税の税率は233%とされる(本税30万円×税率233%=加算税70万円)。
 反応調査では、加算税率だけ見るとびっくりするが、脱漏所得がゼロになるということがわかれば、見つかったらゼロになるだけだ、見つからなければ儲けものという心理になり、それだけでは抑止にならないというものである。

<導入理由>
 今回の改正の理由はどのようなものか。実は創設理由やその根拠、効果・影響等について詳細に述べているものはない。ただ、それらしきものは財務省の「平成28年度改正関係資料」に記述されているので、そのまま掲載する(下線は筆者)。
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◆短期繰返し不正に関して
○ 現行の加算税率は「無申告又は仮装・隠蔽」が行われた回数にかかわらず一律であるため、意図的に「無申告又は仮装・隠蔽」を繰り返す者に対する牽制効果は限定的。
○ そのため、悪質な行為を防止する観点から、過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を賦課された者が、再び「無申告又は仮装・隠蔽」に基づく修正申告書の提出等を行った場合について、加算税を10%加重する措置を導入。
 (注)独占禁止法や金融商品取引法の課徴金制度においても、再度の違反に対する加算措置が設けられている。
◆自主修正に関して
○ 事前通知の義務化(23年度改正)後、事前通知直後に多額の修正申告又は期限後申告を行い、加算税の賦課を回避している事例が顕著に。
○ 当初申告のコンプライアンスを高める観点から、「事前通知(※)」から「更正予知」までの期間については、新たな加算税(「更正予知」後の加算税よりも一段低い加算税)の対象とする。
 (※)①調査を行う旨、②調査対象税目、③調査対象期間を通知した後は、新たな加算税の対象となる。
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 課税庁の思いが吐露されているわけだが、実は短期に不正を繰り返す者が何件あり、不正金額がいかほどなのか、それが社会的にどのような悪影響を及ぼしているのか実態がまつたく明らかになっていない。加重措置がないと効果が薄いといっているが、なぜそういえるのか、根拠がわからない。
 自主修正に関しては、加算税を回避していると決めつけている。それは法律に従っていることだと思うが、回避という裏には「逃れている」「バレもとで裏では脱税している」という課税庁の決めつけが読み取れる。
 納税者を見たら泥棒と思え、なんでもしょっ引いて罰をきせろと、十手をちらつかせて庶民を牽制する岡っ引きの発想と思ってしまう。理由があまりにも情緒的すぎる。このような理由づけなら、「密告と恩賞制度」も早晩創設の運びとなろう。

<深い議論を>
 字数がないので別の機会に譲るが、憲法の二重罰禁止との関係、脱税犯罪との関係、適正手続の保障の問題、課税要件の不確定概念の問題、加算税のそもそもの趣旨、同様に自主修正の趣旨、司法を経ない行政官による行政罰の在り方、行政の均一性・平等原則の問題等々、これまでも幾多の議論が戦わされてきたが、これを機に再度深めることが求められていると思う。
 歓迎一色に水を差しておきたい。