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 江戸時代に神尾春央(かんお はるひで)若狭守という勘定奉行がいました。この勘定奉行は八代将軍吉宗の「享保の改革」で権力を振りかざし、「ゴマの油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」として、実際に苛斂誅求の取り立てを行い農民をどん底まで追い込んだやから。

 さて、ときは今。
 安倍首相は、「大企業が世界一儲けやすい環境をつくる」と公言し、法人税の税率を大幅に引き下げることを柱とした「法人税改革」を自民党と政府の税制調査会に命令しました。
 ここで注意しなければならないのが、税制改革のたたき台(案)を巡る変化。
 自民党が長期政権についていたころは、党税調が実質的に実権を握り具体的な税制改革をわがもの顔に仕切っていました。
 政府税調もあったのですが、「中期的」などと中身のない答申でお茶を濁すばかり。いわばお飾り的存在でした。
 この時のやりかたは、「党税調のドン」が取り仕切る密室協議ですべてが決まると言われており、具体的な検討素材も公表されたのはごく一部でした。
 民主党が政権について大きく変わったのが、党税調を設けず、政府税調で案を検討し、検討素材も公表したこと。密室協議がなくなったのですから、民主的な政治運営という点からは大きな歴史的前進でした。民主党政権についていろいろ批判はありますが、この点は大変褒められることです。
 ところがです。
 民主党から自民党が政権を奪うや、先祖がえりと相成りました。
 政府税調は、再びただのお飾りに(この委員たちに税金で報酬を支給するのは大変な無駄遣いだとしか言いようがない)。
 自民党税調が復活し、密室協議で税制改革を牛耳ることになりました。関連資料の公開もありません。歴史の歯車が、逆回転して戻ったのです。
 自民党税調の決定が事実上日本の税制改革そのものとなります。

 新たに「党税調のドン」になったのが野田毅会長。
 安倍首相の命を受けて、6月上旬にも「法人税の実効税率引き下げに関する見解」を取りまとめるとし、その素案を野田会長が示しました。
 素案では、法人税率引き下げによる減税の財源を確保するため、「応益課税の考え方に基づく地方法人課税の改革」を盛り込み、事業規模に応じて赤字企業にも税金を負担させる外形標準課税を導入する方針を打ち出しています。

 要は、「大企業の法人税は引き下げますよ、それに見合う税額は赤字企業に負担してもらいます」ということ。

 この話を実現するために、実に巧みな宣伝がなされること疑いなし。
 中小零細企業は大半が赤字会社で、均等割りだけの納税となっているのが今の実態。
 ここから搾り取ろうというのが素案の考えですが、まず「応益」という点。
 応益課税というのは、そこに事務所や本店を構えていれば、道路を利用したりゴミを処理してもらったり、何かと国や地方自治体からの便益を受けているはずだ、だから、その益に応じて税金を負担しなさいという理屈。
 実はすでに応益負担として、地方税では資本金で段階税率を適用しているのですが、資本金だけが会社の実態を示しているわけではないので、例えば従業員が多いほど下水道などを余計に利用するではないかとか、車両を何台も所有していれば道路が傷むだろうとか、便益を受ける基準を外形で判断し課税することは当然のことでしょう、という宣伝。
 国税たる法人税率の引き下げで国の税収が減り、そうすると地方への配分も減るので法人税率引き下げ反対という地方自治体の反発がありますが、赤字企業課税は地方税として直接地方自治体の懐を豊かにするのでいいではないか、という宣伝。
 何となく受け入れてしまいそうな話ですが、これで大企業の税金をまけてやるという一番の肝の話がうやむやになるばかりか、外形標準に何を位置づけるかによっては、例えば従業員数であれば、中小零細企業の雇用破壊につながることなど、大事なことが隠されてしまうことになります。

 いうまでもありませんが、法人税を払っても、内部留保を増やし続けている大企業にそれ相応の負担を求めればいいのであって、利益も出ない、それでいて日本の経済や雇用を底支えしている中小零細企業をイジメる税制改革は端からバツなのです。

 消費税の引き上げと赤字企業への課税強化、現代に神尾春央若狭守が出没したようではありませんか。
 「ゴマの油と国民は絞れば絞るほど出るものなり」………。