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 関信国税局が今後の税務行政の方向性を税理士会に説明し、協力を要請したときに配布した資料である。
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 どう変わるのかというと、最大のポイントは「実地調査以外の手法」を積極的に取り入れて庶民や小業者を締め上げる税務行政に転換していく、ということ。
 では、「実地調査以外の手法」とは何かというと、「行政指導」と称する自主見直し要請文書の送り付けと、その「行政指導」に従わなかったときの「呼出し調査・机上調査」である。

 平たく解説しよう。
 税務署から脅しの文書を送りつけるからそれが届いたら納税者は自分の申告が正しいか自分で調査し自主修正しろ、というのが「行政指導」。
 この段階で自主修正したら「加算税はかけないというアメ玉を用意しているからね、おいしいよ」と、納税者が乗ってきそうな誘導策も用意している。
 文書を送りつけるだけで税収があがるのだから効果的・効率的だろう、と税務当局の発案者は自画自賛しているに違いない。
 「行政指導」の脅しにのらないものは、署に呼び出して調査をする。調査官が納税者のところに出向くのではない。だから「実地調査」ではない。しかし、帳簿や書類等を税務署に持ってこさせ「実地調査」とほぼ同じ調査をして是正事項をえぐり出し、修正申告書を提出させる。この場合はアメ玉はなし。加算税をかける、としている。
 「呼出し調査」は「実地調査」ではないので調査着手時の手続がいらないから、手間をかけずにドンドンできるぞというのがミソ。発案者はきっと自分は知恵者と思っているだろう。
 この「行政指導」と「実地調査」を組み合わせて効率的に納税者を締め上げていくので、「ハイブリッド調査」(複合調査)と命名しているというのだから、知恵者の悦の入り方が透けて見える。

 適正課税の向きが違う

 たまたま調査に来た調査官に聞いたところ、税務署の調査事務量の50%以上を「実地調査以外の手法」の事務に充てているというのだから、ハンパではない。
 そうすると、しっかり調査をして適正課税を図らなければならない政治家や大口納税者、規模の大きい会社、はたまた意図的に脱税している巧妙な納税者の調査が手薄となるのは当然の帰結である。
 税理士仲間の話を総合しても、高額納税者の実地調査件数は大幅に減っている。
 小口に対する効率的接触を求めるために、大口を逃し、一年を総括すると適正課税は逆に後退するという結果にならないだろうか。
 課税庁の適正課税に対する立ち位置が完全にズレていると指摘したい。
 それにしても、このような小役人的発想を諌める動きが課税庁内でないのだろうか。財務キャリア官僚も小粒になってものだ。

 呼出し・机上調査は、手続違法

 さて、呼出し・机上調査だが、調査入口手続や質問検査権の行使、調査終了手続きについて、法的な妥当性が十分に検討されているとも思えない。
 まず、行政指導で調査の脅しをかけることは許されない。法的には行政指導と調査は別の概念で構築されているからだ。結果として調査するにしても、行政指導文書に調査に繋がることを表記することは行政手続法第32条に反する。
 また、呼出し・机上調査が実地調査でないから調査の事前手続きの対象外だとするのも無理がある。
 通則法は「実地の調査」を行う場合は事前通知を原則とすると規定している。
 「実地の調査」に関する法律上の定義はない。
 これをどのように解釈するかである。実地の意味は二つある。ひとつは実際の場所という意味、もうひとつは実際の場合という意味。
 広辞苑では「実地検証」を「犯罪が発生した現場や、その他必要とする場所で行われる検証」としている。
 これを「実地の調査」に置き換えてみると、「課税標準が発生した場所や、その他必要とする場所で行われる調査」となろうが、犯罪と違って、所得の発生は縦横に広がる経済行為の中にあり、それを数字で表現するのは帳簿や書類という場所のない代物なので、その帳簿が提示提出される場所が調査場所であり、だからこそ「調査の場所」は納税地とか本店所在地と限定して規定せず、しかも理由があれば変更できると規定されたと解釈される。
 当局の知恵者がいうように、呼出し・机上調査が「実地の調査」ではないと言い切れる根拠はない。手続き規定が制定された趣旨も「税務調査の透明性」である。

 当局は通達で「実地の調査」を、納税者が支配管理する場所で行う調査としている。
 この定義は妥当だろうか。
 調査は質問検査権の行使であり、その対象は納税義務者と帳簿・書類・その他の物件であるから、ある意味で調査場所は限定されていない。通達の規定はそもそも意味がないのである。納税者がそれをもって税務署にいけばそこが課税標準に結びつく物件が存在し、それを納税者が支配管理する場所となる。帳簿書類をもってこさせたということは、そこが「実地の調査」を行う場所となるのである。これ以外の解釈はあり得ない。
 仮に、納税者の事務所が狭隘で調査場所がない場合、借りた会議室や、税理士事務所で調査する場合がある。この場所は納税者が支配管理する場所とは言えない。知恵者の論理からすれば事前手続きをしなくてもよいことになるが、さすがにそれはできまい。「実地の調査」として事前通知手続をしなさいと指示するはずだ。
 「実地の調査」が、場所で180度変質することはない一つの証左である。

 まさか、本調査も呼出し・机上で?

 調査の事前通知を回避するために、机上調査が「実地の調査」でないということがまかり通るなら、本調査であってもすり抜けられる。
 つまり、こういうことだ。
 調査官=「○○さんですか。あなたの所得税の調査を行います。調査だけれどもあなたが支配する場所には出向かないので「実地の調査」ではありません。したがって、11項目の事前通知手続きは対象外です。そこで、××日に税務署の私のところに納税者本人であるあなたが帳簿書類一切をもってきてください。帳簿書類一切を提示しなければ、帳簿の隠蔽に当たりますので、注意してください。見えたときにその場で質問検査権を行使するとともに、帳簿書類の提出を求めて預り、さらに検査します。結果は通則法に則り手続します。」
 ハイブリッド調査などと悦に入っている小役人なら、こんなことに飛躍しそうだ。
 これが通るとすれば、通則法改正の意味は事実上霧散してしまう。
 これは誤りである。
 当然に、いま進めている行政指導から入って呼出し・机上調査に移行する流れで、調査の脅しをかけたり、事前手続きを行わないことは誤りである。
 通則法上、調査の場所は調査官と納税者の合意した場所となる。
 知恵者が都合よく解釈しているに過ぎないのだから、調査手続はクリアされているとは言えず、手続きなしの調査は違法調査となる。
 官僚は自分の発案が失敗しても、あるいは違法であろうと責任をとらない。知恵者は逃げるだけで済んでしまう。税務行政はもっと厳格に願いたい。