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  まだ、不透明だが、消費税のみ増税成立

 顧問先から、相続税の基礎控除が3,000万円プラス600万円×法定相続人の合計に変わったのかとの質問をよく受ける。
 野田政権が消費税の増税を至上命題にしたため、3党合意を取り付けるために自公の要求を丸呑みした。
 その結果、24年度改正の当初法律案に入っていた相続税・贈与税の増税、所得税の増税条項はすべて削除され、24年度改正は消費税の増税だけが残りそれが成立して8月22日に公布されている。
 つまり、答えは相続税の基礎控除の引き下げは決まっていない、ということである。
 25年度改正に盛り込まれるかどうかは、政治情勢をみれば全く不透明としかいいようがない。
 
 増税改正された消費税改正法は26年4月1日施行
 経済状況で施行の停止もありうる
 
 消費税の2段階税率引き上げは成立したが、その改正法附則で施行の停止を含めた措置が条文化されている。
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(消費税率の引上げに当たっての措置)
第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。
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 使途を条文に書き込む
 
 改正法では消費税の使途を条文で明記した。
 消費税法第1条第2項 「収入については、社会保障給付並びに少子化施策の経費に充てる」……実務に直接影響はないが、国民は知っておく必要がある。
 復興財源の便乗使用が明らかになっているように(当HP「経済フラッシュ37」「税金ウォッチ36」参照)、この条文などお構いなしに公共投資などに使おうという動きがすでに出ている。ほとんど詐欺といえる行為であり、騙されてはいけない。
 
 実務は気をつけたい
 
 3%から5%になったときも大変だったが、連チャンで税率を引き上げるという愚行が成立したため、実務にあたっては気を付けなければならないことが増える。改正法附則で経過措置が規定されているので、附則を読み込むことがポイントになる。
 改正消費税法と今後の実務のポイントを押さえておきたい。
 
1 税率改正と適用時期
 ① 26年4月1日以後、27年9月30日まで
    消費税率=6.3%
    地方消費税=消費税額に対して17/63(消費税率換算1.7%)
    合計税率=8%
 ② 27年10月1日以後
    消費税率=7.8%
    地方消費税=消費税額に対して22/78(消費税率換算2.2%)
    合計税率=10%
 <計算方法>
 課税売上1,080万円、課税仕入648万円の場合 いずれも税込

項目
現行
8%適用時
10%適用時
課税標準額
10,800,000×100/105
10,285,714
10,800,000×100/108
10,000,000
10,800,000×100/110
9,818,181
売上の税額
①×4%=411,400
①×6.3%=630,000
①×7.8%=765,800
仕入の税額
6,480,000×4/105
246,857
6,480,000×6.3/108
378,000
6,480,000×7.8/110
459,490
差引税額
②-③=164,500
②-③=252,000
②-③=306,300
課税標準額
④=164,500
④=252,000
④=306,300
税額
⑤×0.2541,100
⑤×17/6368,000
⑤×22/7886,300
消費税・地方消費税
合計税額
④+⑥=205,600
④+⑥=320,000
④+⑥=392,600
現行対比の増税額と率
 
114,400 (1.556倍)
187,000 (1.909倍)

 
2 経過措置の原則=課税期間の中途で税率の引上げとなる場合
 税率の引上げの前と後に分けて算出する(改正法附則2、15)。
 申告書は税率の異なるごとに区分した課税標準額を記載する新様式に改定される(改正法附則13②)。
 資産の譲渡等の時期は、原則商品の引渡しの日とされており、税率引き上げの前後は、「資産の譲渡等を行った日」について、特に慎重に記録管理する必要あり。
 税率引上げ前に締結した契約に基づき、引上げ後に譲渡を行った場合には、譲渡を行った日において売上を認識し、その売上には新税率を適用する。
 仕入についても引渡しの日を基準に認識する。
 なお、土地建物については、契約日に譲渡を認識することもできる。
 
3 もろもろの経過措置
① 旅客運賃、入場料金等
 26年3月31日までに領収している場合で、課税資産の譲渡を26年4月1日以降に行うときは税率5%(改正法附則5①)。
 *8%から10%引上げ時も同様の措置(改正法附則16)。
 *経過措置の適用ある場合は、仕入の税率もそれぞれ5%、8%(改正法附則5⑦)。
② 電気、ガス、水道料金
 26年4月1日から4月30日までの間に料金の支払を受ける権利が確定するものは税率5%(改正法附則5②)。
 *8%から10%引上げ時も同様の措置(改正法附則16)。
 *経過措置の適用ある場合は、仕入の税率もそれぞれ5%、8%(改正法附則5⑦)。
③ 工事の請負
 工事の請負(製造を含む)は次の経過措置(改正法附則5③、16)。
ア 平成25年9月30日以前に締結した工事の請負契約に基づき、平成26年4月1日以後に課税資産の譲渡が行われる場合=消費税率4%(地方消費税との合計税率5%)
イ 平成25年10月1日から平成27年3月31日までの間に締結した工事の請負契約に基づき、平成27年10月1日以後に課税資産の譲渡が行われる場合=消費税率6.3%(地方消費税との合計税率8%)
 *経過措置の適用ある場合は、仕入の税率もそれぞれ5%、8%(改正法附則5⑦)。
 *売側は仕入側に対して、その課税資産の譲渡が上記の経過措置の適用を受けたものであることを書面で通知する(改正法附則5⑧)。
 
 <工事請負の税率適用関係>
 
      25.10.1
26.4.1
  27.4.1  27.10.1
 譲渡時適用税率
5%
8%
10%
税率5%
締結
譲渡
税率5%
 
締結
譲渡
 
税率8%
 
締結
譲渡
税率8%
 
締結
譲渡
税率8%
 
締結
譲渡
 
税率10%
 
締結
譲渡
 
 
  25.10.1     26.4.1
  27.4.1  27.10.1
 
④ 資産の貸付
 平成25年9月30日までの間に締結した資産の貸付に係る契約に基づき、平成26年3月31日以前から引続き資産の貸付を行っている場合で、貸付期間・対価の額が定められており、解約ができない等一定の要件に該当する契約になっているときは、税率5%(改正法附則5④)。
 *8%から10%引上げ時も同様の措置(改正法附則16)。
 *経過措置の適用ある場合は、仕入の税率もそれぞれ5%、8%(改正法附則5⑦)。
 *売側は仕入側に対して、その課税資産の譲渡が上記の経過措置の適用を受けたものであることを書面で通知する(改正法附則5⑧)。
⑤ 役務の提供
 平成25年9月30日までの間に締結した役務の提供に係る契約で、その契約の性質上その役務の提供の時期をあらかじめ定めることができないものであって、役務の提供の前に対価の全部または一部が分割して支払われる等一定の要件に該当する契約になっているときは、税率5%(改正法附則5⑤)。
 ただし、平成25年10月1日以後においてその役務の提供の対価の変更が行われた場合は新税率の適用となる。
 *8%から10%引上げ時も同様の措置(改正法附則16)。
 *経過措置の適用ある場合は、仕入の税率もそれぞれ5%、8%(改正法附則5⑦)。
      延払基準、工事進行基準……略
 
4 売上対価の返還の処理
 税率が5%であった時期の課税売上の対価の返還であれば、税率が8%、10%の時期であってもその控除税額は課税売上を行った時期の税率5%により計算する(改正法附則11)。
 この場合、対価の返還等の金額を譲渡対価の額から控除する経理処理はできない。売上とは別に記帳し、税額控除による処理を行う必要がある。
 95%ルール不適用の場合の課税売上高は、対価の返還等の金額を税抜き額で控除するものとされているが、その場合もその売上の時期の税率で対価の返還額を税抜きする(改正法附則3、16)。
 
5 貸倒れに係る税額の処理
 対価の返還と同様、貸倒れに係る譲渡時期の税率により控除すべき消費税額を計算する(改正法附則12、16)。
 
6 仕入対価の返還の処理
 その課税仕入を行った時期の税率により消費税額を計算する(改正法附則9、16)。
 通常、その科目の減額処理をするが、個々の処理において適用する税率を正確に対応させる必要がある。
 
7 棚卸資産の税額調整
 免税事業者から課税事業者あるいは課税事業者から免税事業者となる場合の棚卸資産の仕入税額の調整については、その棚卸資産の課税仕入を行った時期の税率により算出する(改正法附則10①③、16)。
 
 納税義務の見直しも
 
 22年度改正で調整対象固定資産を取得した場合の納税義務・簡易課税の見直しが行われている。
 23年度改正で、「特定期間」の判定が追加されている。
 24年度改正で、「新規設立法人」のうち「特定新規設立法人」に該当すれば「新設法人」と同様に設立当初2年間は納税義務が免除されないこととされた(消費税法12の3①)。
 26年4月1日以後設立される法人に適用(改正法附則4)。
 「新規設立法人」とは、資本金1,000万円未満で設立する法人。
 その法人が、新設開始日に、株式総数の50%超を直接・間接に他の者に保有されている場合で、その保有する者(特殊関係法人含む)が新設開始日の属する事業年度の基準期間における課税売上高が5億円を超える場合、「新規設立法人」は「特定新規設立法人」に該当し、設立2年間は課税事業者となる。
 「新規設立法人」が支配する者に対し課税売上高の情報提供を求めた場合は、それに応じなければならないとされている(消費税法12の3④)。
 
 誰でも中間申告可能に
 

 これまで、消費税の中間申告は前年の税額に対応して中間申告が強制されていた。一方で基準に満たない場合は中間申告の義務がなかったが、納税資金と滞納対策として誰でも届出によって中間申告ができることらなった。26.4.1以後開始課税期間から適用となる。