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 確定申告の時期、税務行政への支援として税理士会は無料相談会を開いています。要請があり平日の1日相談に従事しました。朝から受付けを待つ長蛇の列。並んでいるのは大半がお年寄りの方。相談者は1日で25名でしたが、2ヶ所給与の若者ひとりを除いて24名は年金受給者でした。 nenkinhutan.jpg

 他の税理士の面接者も同様でしたから、年金受給者が確定申告のために税務署や無料相談会上に殺到している様子が容易に想像できます。
 24名の年金受給者のうち、支給額が年間300万円を超えていた人はたった一人。夫婦で長生きされている方も二人合わせて300万円を超えている人はいませんでした。

老年者控除廃止、公的年金控除引き下げの影響

 基礎年金の国庫負担引上げに必要な財源を確保するためとして、平成17年から、高齢者狙い撃ち増税が実施されました。
 65歳以上の老人で年間所得が1,000万円以下であれば、一律50万円を所得から控除できる老年者控除が廃止されました。さらに、公的年金の受給額に応じて年金収入から控除できる公的年金等控除についても、65才以上の最低保障額が140万円から120万円に引き下げられました。
 平成16年1月1日からの配偶者特別控除(上乗せ部分)の廃止とあいまって、65才以上の課税最低限は平成16年が約285万円(注)だったのが、平成17年には約205万円まで引き下げられたのです。
   (注)モデル世帯=夫婦とも65歳以上、妻は専業主婦、受給額は2人合計で約283万円の場合
      は非課税でした。
 定率減税の廃止、地方税への税源移譲と続き、年金受給者の現在の税金負担と手取り額は表のようになります。手取り額でみると、年金だけで生活するのは容易なことではありません。

後期高齢者医療制度のスタートで手取り急減

 そのうえ、第二の税金である社会保険料がお年寄りを襲いました。負担額を実感していただくために、年金者組合の方に協力していただきました。Aさんの「公的年金等の源泉徴収票」は別掲のとおり支給額は2,362,896円(月額196,908円)です。
 Aさんはいたって健康で、基礎控除しかないため、年税額は30,200円となります。プラス社会保険料が177,800円ですから、手取り額は2,154,896円(月額179,574円)となり、生活はぎりぎりといいます。
 源泉徴収票で目を引くのは、長寿医療保険料額。税金の約4倍です。平成20年4月からスタートした「後期高齢者医療制度」の保険料のことです。
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 高齢者同士で医療保険制度を支えあうという世界でも例のない保険制度の導入により、高額の保険料が基本的にすべてのお年寄りから徴収される制度ができました(減免措置あり)。
 民主党は公約で、老年者控除の復活と後期高齢者医療制度の廃止を掲げ、後者については撤廃の法案も提出した経緯があります。しかし、政権についたとたん、税制改正では老年者控除の復活を見送り、後期高齢者医療制度の見直しについては先送りとしました。

 長年にわたり社会に貢献してきたお年寄りの皆さんが、余生を安心して送ることができない国、ぎりぎりの生活水準といえる年金受給者が確定申告で税金を納めるために税務署に出向かなければならない国、それが日本の現実です。
 年金受給者も消費税で税金に寄与しているのです。また、年金は失業手当と同じといえますから、基本的に所得税は非課税とすべきものです。お年寄りだけの差別的医療制度による高額の社会保険料もやめるべきです。引かれるものがないとなれば、安心して消費に回り、全体の税収は回復されます。単純に財政の逼迫を生じるものではありません。むしろ、税務行政や医療行政で膨大な事務的エネルギーを割き、実に社会的な損失をもたらしているのです。
 財源は応能負担原則を強化すれば十分に確保できます。民主党は、公約どおり、老年者控除を復活させ、後期高齢者医療制度を撤廃しなければなりません。