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   法律の基本線

 「中小企業等経営強化法」が28年7月1日施行された。
 まず、この法律の基本的なことを押さえておこう。
 この法律は、「やる気のある中小企業」「手を挙げた中小企業」を政府が支援するというもの。
 こうした中小企業に対する政策は何と言っても「中小企業基本法」がベースになっている。
 その「中小企業基本法」は1999年に抜本改正されたが、今回の「強化法」も改正以降の中小企業対策の延長線上にあるといえる。
 旧基本法と新基本法の違いを簡単に比較すると次のとおりである。

旧中小企業基本法(改正前)新中小企業基本法(改正後)
層・群としての中小企業総体の問題としての認識多様性をもつ個別企業の問題としての認識
中小企業体全体の成長・発展の政策思想 特定個別企業の成長・発展へ政策転換 

 違いは歴然である。
 上記改正の帰結として、個別企業として成長できないものは「退出」しなさい、維持のための手は差し伸べない。退出に関してはセーフティネットを整備すると、実にあからさまな規定ぶりとなっている。
 この基本法の改正と同じ1999年に制定されたのが「中小企業経営革新支援法」である。この法律は通産大臣(当時)が経営革新指針を定め、中小業者が経営革新計画を作成し、それが承認されると課税の特例を受けられるというもので、それまで国や商工組合等が計画を策定する方式とは異なり、個別企業が主体になっている。
 こうしたやり方がその後の中小企業対策(政策)の仕組みとして採用され、今回もこの仕組みによっており、個別企業として対応しなければ固定資産税減免は受けなれない。
 したがって、待っていては何も得られず「退出」に追い込まれかねない。政府の中小企業対策のやり方を受け止め、活用する姿勢が大事だ。
 ここを是非肝に銘じてほしい。

   申請を積極的に

 前置きはこれぐらいにして、施行された「強化法」は次のような構造(流れ)になっている。
 ① 中小企業は「経営力向上計画」を作成して主務大臣に申請する。
 ② これが認定されれば支援措置が受けられる(認定されなければ支援は受けられない)。
 つまり、やる気があるところを示し、手を挙げなければ支援は受けられないことになる。
 認定されることがポイントなので、申請は積極的に行うべきであろう。

   支援はふたつ

 認定されれば次の支援を受けられる。
 ① 生産性を高める機械装置を28.7.1以降に取得した場合、3年間固定資産税が1/2に軽減される。
 ② 計画に基づく事業に必要な資金を政府金融機関から低利融資で受けられる。また、中小企業基盤整備機構による債務保証が受けられる。

   赤字法人も税金面の恩恵

 すでにある投資促進税制や所得拡大促進税制も税制による支援だが、黒字で税金を納める企業でなければ恩恵はない。赤字法人では使えない。
 しかし、固定資産税は赤字であれ、一定の償却資産であれば納税しなければならない。
 これを軽減対象にすれば、黒字・赤字に関係なく、税金面の支援ができるというわけだ。
 その意味では、これまでになかった税制による支援ということになる。
 ただし、対象となる機械装置は次のものである。
 ① 中小企業者が「経営力向上計画」に基づき取得する新規の機械装置(新品)
 ② 生産性を高める機械装置(160万円以上、かつ、生産性1%向上で販売開始10年以内のもの)
 上記の機械装置は最新モデルでなくてもよい。
 生産性向上の判断は通常機械製造メーカーが証明書を交付するので、取得時にチェックすれば問題はないであろう。

   注意事項と政策減税の問題点

 以上、「強化法」とそれによる固定資産税の減免をみた。160万円以上の機械装置を取得しようと考えている事業者は積極的に活用してほしい。
 ただ、申請とその認可には3月から6月ほどの時間がかかると経産省が注意しているので、計画があれば早めに申請手続きを行いたい(経産省の対応は解せないが)。
 安倍政権がバタバタと打ち出している政策だが、軽減は3年間であり、いかにもとってつけたような期間である。また、最初に述べたとおり、「やる気のある中小企業」に限定され、償却資産をたくさん抱えているが、新規取得は難しく、何とか既存設備で維持しようという企業に対しては支援が及ばない。底上げには結びつかず、競争に拍車がかかり、やる気ある企業は一層発展し、維持にやっとの企業にとっては退出を促進されることになりかねない。
 層・群としての中小企業はますますやせ細ることになる。こうした懸念のある政策と言えるのではなかろうか。