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 税務署の29事務年度は、29年7月1日から30年6月30日である。
 7月10日の人事異動、夏休みを挟んで、旧盆明けから税務署の業務が本格化する。
 中心は「課税」のための業務であり、その柱は「調査」ということになる。
 その調査を漫然とやるわけではない。
 国税庁の任務は、「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現」(財務省設置法第19条)とされているが、職員数などから納税者をすべてチェックすることはできない。そこで、国税庁長官は年間方針を定めてここを重点に運営しろと指示を出す。 それが右に表示した指示通達である。標題が長いので、「特に留意すべき事項」を略して税務署内部では「特留」といっている。
     国税庁長官の指示通達~表紙と職員への指示
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 この通達はホームページ等で公開されない。
 そこで東京税財政研究センターが開示請求して手に入れたものがある。
 この1年、税務署が何を重点に税務行政を運営するのか知っておくことは税の専門家としては大事なことなので通読することになる。
 全文が黒塗りもなく開示されているので、手に入れたい方は東京税財政研究センターに申し込むとよい(電話03-3360-3871、送料等有料)。

 この通達は、黒枠内に記述されているように、「課税部の職員全員が、これらの内容を十分に理解したうえで、担当事務を的確に実施する」としている。
 ところが、税務職員のなかにはこの指示に反する職員がいて、納税者に高圧的であったり法律を無視した行動をとるものもいる。
 そのような場合、この指示を示して是正を求めることが肝要であろう。
 そうした武器にもなるので、当局の重点施策のポイントと、納税者が知っておきたい点を簡潔にあげておきたい。

   調査事務の重点課題

 ① 国際化と富裕層への取り組み
 「『パナマ文書』などにより、国際課税および富裕層に対する調査を優先的、積極的に行う。」としている。
   *大いに人材を投入して取り組んでほしい事項だ。国税庁に期待したい。
 ② 消費税の適正課税の確保
 「消費税の適正課税の確保は、執行当局の最重要課題」であるため、重点的に取り組む。
 個人課税では、「いわゆる消費税のボーダーライン層に属しているが、所得税の申告事績やその業態の景況感等からみて意図的に所得税・消費税を免れていると想定される者に対しても積極的に実地調査等を実施する。」としている。
 法人課税では、「意図的な無申告、多額な不正還付や消費税額の圧縮など消費税固有の不正計算を行っている法人を厳正に調査する。」としている。
   *意図的な無申告と認定されると7年遡及・重加算税賦課となるので、追徴税額は巨額となる。無駄な出金とならないよう適正申告に努めたい。
 ③ 無申告事案への取り組み
 「無申告事案については、地方公共団体との連携や専担者の配置など組織的な対応を図」り、「効果的な調査に取り組む」としている。
 個人課税は「無申告の掘り起こし」、資産課税は「無申告事案の積極的把握に努め、低階級であっても課税が見込まれるものは調査を行うなど、取り組みを強化する。」としている。
   *課税当局は、無申告は過少申告より悪質との認識を示しており、マイナンバーの活用や資料情報で掘り起しが強化され、相続は少額でも無申告は見逃さないという方針になっている。
 この3点が調査事務の重点だ。

    変な調査に対しては

 「特留」では、税務職員に対して次の指示を行っている。
 <法令等に基づく適正な調査の実施>
 調査の実施に当たっては、調査手続の透明性と納税者の予見可能性を高めるとの国税通則法の趣旨を踏まえ、引き続き、法令等に基づき適正に調査手続を履行する。
 なお、平成29年度税制改正により平成30年4月1日から犯則調査手続に関する規定が国税通則法に規定されることになるが、課税調査において犯則調査の権限を利用している、犯則調査のために質問検査権を行使しているなどの誤解が生じないよう留意する。

 まず注意してほしいのは、「課税調査」と「犯則調査」という用語である。
 これらはいずれも法律上の用語ではないが、国税通則法に犯則調査が編入されたことから、一般の税務調査を「課税調査」と表現し、刑事罰の告発を目的とする調査を「犯則調査」と、課税庁が区分けして表現したものだ。
 その課税調査は原則として事前通知をして行うことになっており、無予告で突然乗り込んでくる調査は例外であり、法律上6点ほどの理由が必要である。単に現金商売だからとか、資料があるからというのは理由にならず違法である。
 課税調査で納税者をまるで脱税者のように扱う調査も違法である。
 調査手続や改正の趣旨を勉強していない職員や、知っていても強引に調査を進める調査官が後を絶たない。
 この長官通達を示して、きちっと対応しよう。