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 大震災と政局の混乱により、23年度税制改正法案はその一部を切り出したうえで成立した。残りは引き続き協議し成案をえる、としている。
 継続審議となったのは次の諸点。
 ①所得税の給与所得控除に上限の設定、成年扶養控除の所得制限による不適用、役員等
  の退職金課税強化
 ②法人税の税率引き下げ
 ③相続税の控除額引き下げと税率引上げ、贈与税の税率構造緩和
 ④国税通則法抜本改正、更正の請求期間の延長等納税環境整備
 ⑤連動する地方税
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 継続審議となった④国税通則法抜本改正、更正の請求期間の延長等納税環境整備は、納税者権利憲章の制定や調査手続きの法制化など、今後の税務行政とりわけ調査に大きな影響が生ずるので、今後の動きに気をつけたい。

 改正法案は6月22日に成立し、6月30日公布された。以下、注意すべき改正点を紹介する。■は適用関係。

<刑罰の新設>
 調査の強権化を規制する視点から注意してほしいことをはじめに述べておく。
 各税法に故意の申告書不提出ほ脱犯(罰金と懲役)とプラスして消費税法だけに不正還付未遂犯(罰金と懲役)が創設された。公布の日から2月経過以後、つまり23年8月31日以後の違反行為から適用されることとなった。
 政府は、両刑罰とも査察事案のような悪質事案を対象にすると国会答弁した。しかし、悪質高額な脱税について7年遡及を適用するとした国会決議が、現在では事実上無視され、少額でも不正があれば7年遡及するという課税庁の動きになっている。査察事案のみという国会答弁が反故になる可能性があり、無申告者や消費税の不正還付に対し刑罰を背景とした脅しや強権調査が横行する恐れもある。国会答弁を記憶し続けることが大事だ。

<所得税法>
1 年金所得申告の簡素化
 ① 公的年金等の収入が400万円以下で、かつ、それ以外の所得が20万円以下のときは
  確定申告を要しない。  ■23年分から適用
 ② 公的年金等の源泉税額計算で、人的控除に寡婦(寡夫)を追加。  ■25.1.1以後
   支払う公的年金等について適用
2 早期還付  ■公布の日から施行
 申告義務のある者の還付申告書は、その年の翌年1月1日から提出可能(現行2.16から)。
3 還付加算金の起算日変更  ■24.1.1以後支払う還付金から適用
 予定納税額・更正減額の還付=確定申告書提出期限の翌日から更正の日の翌日以後1月を経過する日までの日数は、計算期間に算入しない(現行は納付日又は法定納期限の翌日)。

<法人税法>
1 グループ法人税制
 ① 支配関係法人が所有する一定株式の評価損の計上不可。 ■公布の日以後適用
 ② 複数大法人に株を全部所有されている法人は軽減税率不適用に加え留保金課税強制
  適用。  ■23.4.1以後開始年度から
2 仮決算中間申告の制限……(還付加算金対策)  ■公布の日以後
 ① 前年の確定法人税額の1/2が10万円以下または0の場合
 ② 中間納付税額が前年確定税額の1/2を超える場合。
3 還付加算金の起算日変更……所得税と同じ扱い。 ■24.1.1以後支払う還付金から適
  用

<相続税法>
1 相続時精算課税において還付する贈与税相当額の還付加算金の起算日変更……所得税
  と同じ扱い。 ■24.1.1以後支払う還付金から適用

<消費税法>
1 免税制度の基準期間の見直し
 次に掲げる期間の課税売上が1,000万円超の場合はその年、その事業年度は免税不適用。
 ① 個人  その年の前年1月1日から6月30日までの期間
 ② 法人  A その事業年度の前事業年度の開始日以後6月の期間
         B 前事業年度が7月以下=短期事業年度という=の場合は前々事 
           業年度の開始日以後6月の期間
  ※ 判定にあたって、所法231条に規定する支払明細書に記載すべき給与等の合
    計額をもって課税売上高とすることができる。
   ■25.1.1以後開始する、個人事業者のその年、法人のその事業年度から適用
2 課税売上割合95%以上の場合の仕入税額全額控除の見直し
  その課税期間の課税売上が5億円超の事業者は不適用。
   ■24.4.1以後開始課税期間から適用
3 更正や中間納付額の還付加算金の起算日変更……所得税と同じ扱い。
   ■24.1.1以後支払う還付金
4 不正還付未遂犯の創設  ■公布の日から2月経過以後の違反行為

<租税特別措置法>
【個人課税関係】
○ 増改築補助金、耐震改修補助金、断熱改修補助金の各要した費用からの控除。
   ■公布の日以後の契約に適用 ※ 23.4.1以後契約ではないので適用関係に注意
【法人課税関係】
○ 雇用者が増加した場合の特別税額控除の創設  ■公布の日以後施行
 ① 青色事業者で当期と前期に事業主都合による離職者がいない
 ② 23.4.1~26.3.31の間に開始する事業年度の新規雇用者数が5人以上(中小法人は2
   人以上)で新規雇用者割合が10/100以上
 ③ 給与支給額が比較対象の支給額以上
 ④ 風俗等の事業を除く
 以上の要件を満たす場合、20万円に新規雇用者数を乗じた金額を税額控除できる。ただし、当期の税額の10/100(中小法人は20/100)を限度とする。
【資産課税関係】
 ①直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税措置、②特定贈与者からの住宅取得資金贈与の相続税精算課税特例措置で、住宅取得資金の範囲に先行取得土地の資金を追加。
   ■23.1.1以後贈与から適用  遡っての適用となるので注意を。
【その他】
○ 特別還付金の創設=保険年金の2重課税問題で対応しきれていない年分について、特別還付金請求書の提出により特別還付金(+加算金)を支給(非課税)  ■公布の日から1年以内の提出分

<税と社会保障一体改革=中期的な増税方針>
 23年度税制改正とは別の増税作業が政府によって進められている。
 「税と社会保障一体改革」で、消費税10%の引上げと納税者番号の導入が方針化された。
 消費税10%は営業、資金繰りに重大な影響を及ぼすことは必至。
 納税者番号制度は2015年に法案提出予定。「マイナンバー」なる愛称が公募されて決定された。国民や事業者は「マイナンバー」カードを所持し、カードを提示しなければ領収書がもらえなくなるなど、番号制度は社会生活に影響するとともに、とりわけ税務行政に大きく貢献し、取引管理が強化される。申告書に加え、情報申告が義務化され、情報収集と照合が行われ、税務調査等に反映されることになる。
 事実上の国民総背番号制度であり、国民的議論が必要な事柄である。なし崩しの導入を許さず、議論を巻き起こそう。