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 国民のみなさんは余り問題意識を持っていないようだが、いわゆるマイナンバー法の改正で、今年(2018年・平成30年)の1月1日から預金口座にマイナンバーが付番されることになった。

  預金の名寄せが目的

 マイナンバーの歴史的経過を見れば、そもそもは大蔵省主導による「納税者番号制度」の導入がスタートである。
 納税者番号制度は、預金等をその番号で本人確認と納税者別に名寄せできるようにし、利子・配当の総合課税を行うというものであった。
 日本では、国民には課税当局に対する根深い不信がある。納税者番号に対しても強い拒否反応があった。そこで「グリーン・カード」などと耳触りの良い制度を導入することとした。それを盛り込んだ「所得税の一部を改正する法律」は1980年3月に成立し、1984年1月から施行するとされた。当時の大蔵官僚は悲願達成の喜びに浸った。
 ところが、郵政省や郵政議員、金融業界、自治労の反対で、成立した法律が施行されることなく廃止されてしまった。
 大蔵官僚の悲願は打ち砕かれた。

  無抵抗で悲願達成

 綾小路きみまろではないが、「それから35年」、その悲願が何の抵抗もなく今年の1月からスタートしているのだ。
 利子・配当の総合課税などは視野に入っていないが、①預金保険機構によるペイオフのための預貯金額の合算、②社会保険制度における資力調査、③税務調査で利用することになっている。
 政府は、預金口座にマイナンバーを付番することで、社会保障制度においては各人の所得や資産を適正に把握することができること、税務においては各人の資産を把握し適正に課税できることが期待されるとしている。

  検索できる状態に

 金融機関は、預貯金者等の情報=個人は氏名、法人は名称、住所、預貯金に関する情報=をマイナンバーや法人番号で検索できる状態で管理しなければならない。いうまでもないが、その個人が設定した複数の口座はマイナンバーですべて紐づけられることになる。そうでなければペイオフの合算はできないから、そうしたシステムになるのは当然である。

  早くも負担増に利用する方針が

 「骨太の方針2018」では早くもこの「期待」を取り込む方針を打ち出した。
 <3割負担の収入要件>
 医療や介護の自己負担が3割となる「現役並み所得者」の判断基準(収入要件)の見直し。マイナンバーを活用して高齢者の預貯金などの資産を把握し、それを収入要件に算定することで現役並み所得者と認定し3割負担にすることを検討する、としている。

  税務調査は様変わり

 税務調査では質問検査権があり、金融機関に対する反面調査は以前から行うことができるため、実態に変化はないように思われるかもしれない。
 だが、遠隔地の金融機関などを利用している場合にそれを漏れなく把握することは容易ではない。ところがこれからはマイナンバーでどこの金融機関であれ、個人ごとに名寄せできるのであれから、様相は一変する。
 税務調査における金融機関調査は、帳簿調査等の補完調査とされているが、これからは調査の必要性があるかどうかに拘らず、まず最初に調査対象者の預貯金や金融資産をマイナンバーで把握し、そこを切り口に調査が展開されることになろう。
 法律で規定されている「調査の必要性」は無視されるので違法性を帯びる。しかし、実際には調査であるにもかかわらず、課税庁は手に入れた有効な武器を資料収集としてお構いなしに使うことになるのは疑いない。

  3年後に義務化の可能性

 金融機関等はマイナンバーの利用目的の通知等が必要である。新設口座はいうに及ばず、既存口座についても利用目的を通知してマイナンバーを要求することになる。
 ただし、改正マイナンバー法でも提供は任意とされている。
 ところが、施行後3年(2021年)を目処として、所要の措置を講ずるとしているので、預貯金口座の付番が義務化される可能性がある。

 課税庁が喉から手が出るほどほしかったマイナンバーによる預金の名寄せ。
 国民の資産が丸裸になる日がひたひたと迫っている。