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   NYタイムズのコラム

 イギリスは民主主義や多元主義、自由経済の欧州の盟主だが、一握りのひねくれた政治家によって国民が大きく揺さぶられた。ひねくれ政治家たちは、不安をあおり、非常に複雑な問題を「EUに残るか去るか」という二元論にすり替えた。
 そして離脱を勝ち取ったものの、無策ぶりを露呈している。こんな事態が起こるのは、複雑な問題に簡単な解決策があると考えるペテン師の手にかかったからだ。
 イギリスで虚言交じりの言説が勝ってしまった事実は、人々が抱える不安の根深さを物語っている。
 多元主義を育む国が政治的に安定し、繁栄する。「壁」や「分断」ではなく、「網」を広げ「融合」を図ることだ。
 第2次大戦後、EUは平和と繁栄、民主主義、自由を守るために生まれたということを忘れてはならない。
 オックスフォード大の経済学者はこう指摘している。「EUは人類の金字塔とも言える。崩れていく様を座視するのではなく、イギリス離脱の衝撃を、新しい欧州を再構築する契機としなければならない

 EUが私たち日本人の日常に入り込み話題になるのかといえば、恐らくノー!であろう。
 しかし、イギリスが国民投票でEUを離脱することになったニュースによって、少しは関心を持つようになったのではないだろうか。
 筆者も同じである。そこで少し気をつけて報道に接してみると、朝日新聞7月17日に掲載された「コラムニストの目」という記事に引き付けられた。
 6月29日付のNYタイムズにのった、トーマス・フリードマンのコラムの抄訳である。
 短いコラムだが、筆者は大いに感じ入ったのでここに紹介した次第である。

   翻って日本は

 ひねくれた政治家を「ペテン師」と断言し、「虚言交じりの言説」と切り捨てる勇気ある発言(真実の発言)で、日本の報道ではお目にかかったことがない。
 このコラムを記事にした朝日とて、他の新聞を紹介しているだけで自分の記事や論説としては腰が引けている。

 思うに、このコラムはアメリカのトランプや、日本の小泉や安倍、橋下といった政治家についてはあれこれいうまでもなく、そして今の日本の状況に恐ろしいほど当て嵌まる。
 我々はペテン師の手にかかってはいけない。
 イギリスは貴重な教訓を世界に示した。
 アメリカが教訓を生かすことができるのか、大統領選を注視したい。

   二元論のすり替えを乗り越えて

 参議院選挙の結果、「改憲派」が3分の2の議席を確保したとされる。
 自民党の改憲草案は現行憲法と真逆で国民を縛り上げることが基調で、平和、繁栄、民主主義、自由とは無縁の内容を持つ。これをタタキ台として憲法を改正しても、日本に将来の繁栄はないことは、コラムニストが指摘する通りであろう。
 「日本国憲法は人類の金字塔」だと筆者は思っているが、この金字塔を崩すためにペテン師たちは、「いまの憲法は押し付け憲法だ」、「自主憲法を制定してこそ独立国家だ」とブチ上げる。
 歴史的な到達点を持つ憲法が規定する核心には一切触れずに、ナショナリズムと虚言交じりの二元論をまくし立てる。これに乗ってしまうと、イギリスの二の舞になってしまう。

 この流れに対して、参議院選挙はひとつの光明を示した。 
 網を広げ融合を図る市民運動と野党共闘が実現し、大きな成果を生み出したことだ。
 都知事選での野党共闘も実現した。
 改憲派が多数を取った「衝撃」を乗り越える契機を、この夏の選挙戦における野党共闘は作り出したのではないか。当事者の野党を含め、国民は歴史を見誤ってはならない。