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 昨年12月上旬、ある個人事業者が相談に乗ってほしいと事務所にやってきました。
 その時のやり取り。
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 局資料調査課の2名と税務署の2名、計4名が、9月に無予告で調査に来たという。あれこれ引っ掻き回されたうえ、7年遡及・オール重加算税対象で超多額の追徴税金を突き付けられ、修正申告しろと迫られているという。
 ある税理士に依頼して申告しており調査でも立ち会ってもらったが、この税理士は調査では税務署の言うがままで、税務署と同じスタンスで修正を催促しているともいう。
 一生かかっても払えない途方もない額で、調査の強烈さに気をされて事業を廃業した。大家に事情と撤退を申し出たところ当事務所を紹介されたという。頭の中が真っ白だと、力なく話をする。
 調査官から渡されたという否認額の一覧表を見させて貰うと、7年遡及オール重加だというが直近2年分は日計表からの数字だが、それ以前の5年分はすべて推計で、表に「推計」と明記してあり、その年分の帳簿は見ていないという。
 青色申告なのだが、青色取り消しは言われていないという。
 青色取り消しもせず帳簿調査もせず推計額で7年遡及するのは所得税に違反していると思うが、関与している税理士はそのことは何も話してくれていないとわかった。推計で途方もない額を吹っ掛けた税務署も税務署だが、税理士も税理士である。

 「質問応答記録書」を取られたかと尋ねると、「質問応答記録書」がすでに作られていて、調査官が読み上げて署名押印しろというので署名押印したが、とてもではないが内容を細かくチェックできるような状態ではなく、よく覚えていないという。

 調査中、調査官から暴言のような発言はなかったかと聞くと、資料調査課の主査から「国税をなめんじゃねえ」とすごまれたという。
 これには面接に臨んでいた当事務所の3人はびっくり。再確認したが、この人に間違いなくそういわれたと発言者の名刺を示した。
 調査に立ち会った税理士は主査の発言に抗議した様子はない。
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 話の概要は以上です。所得税の一般的な調査でず。これを読まれてどのような感想を持たれたでしょうか。
 いろんな問題がありますが、調査官の「国税をナメんじゃねえ」には「びっくりポン」です。

  川崎汽船事件に学ぶ

 税務調査で調査官のひどい発言が事実認定された事案として有名なのが川崎汽船の調査。
 大阪に本社を置く川崎汽船が大阪国税局調査部の調査を受けました。更正処分に対して不服申し立てをし、審判所が一部取り消しの裁決を下しています。
 この審判の中で調査時の調査担当者の異常な言動が明らかにされ、審判所もそれを事実として認めたというものです。

 納税者側の陳述書で明らかにしたこと・・・・・・・
「再度調査担当者から質問調査を受けた際、質問事項に対する調査結果をまとめた回答書面を提示すると、調査担当者は、「この内容は違うじゃないか」と言って怒り出し、怒鳴り続け、「この会社は法人の体をなしていない。」などと意味不明なことを述べていた。そして、確認書を作成するとして、自ら作成した文案を示し、これを手書きした上で署名押印するように要請し、×××から、確認書は最終的な証拠にはならないと聞いていたので、示された文案をそのまま書き写して確認書を作成した。なお、調査を受けていた際、隣の部屋では別の会議が開かれていたが、調査担当者の怒鳴り声があまりに大きくて、途中で会議室を変更したと聞いている。」

 その時に隣の会議室を使用していた従業員の陳述書・・・・・
 「請求人の会議室において○○○○に関する会議をしていたところ、隣の会議室から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。自分たちの重要な会議にそのような邪魔が入ることは今までなかったので強く印象に残っている。怒鳴り声の内容は、強い口調で誰かを叱責したり問い詰めたりしているものであった。とても質問をしているというような語調ではなく、あたかも相手を威圧させるような高圧的な語調であった。同じ会議に入っていた請求人の◆◆◆◆から、いま××××が来ていると言われた。そのような怒鳴り声のせいで会議に集中できないなどの支障が出たが、2時間程度同じ会議室での会議を強いられた後に他の会議室に移動した。」

 この部分についての裁決(平成23年12月14日)・・・・・・・・・・・・
7 税務調査の過程において、請求人の社屋に臨場した調査担当者が、応対した請求人の従業員らに対して、怒りをあらわにしたり、隣室で開催中の会議に支障を来たすほどの怒声を発したりした様子がうかがわれるのみならず、請求人の担当従業員に調査担当者の認識に添った内容の確認書を作成させたり一部客観的事実に反する内容の回答を引き出したりした様子がうかがわれるのであって、当該税務調査において、調査担当者の認識に沿う方向に進めようとして、いささか強引で、威圧的・誘導的な手法に訴える場面があった様子がうかがえるところであるが、臨場調査は、主に請求人の会議室で行われており、密室状態で行われたものではなく、当該税務調査が税務職員の権限を背景とした威圧的な雰囲気の下で行われたとしても、請求人において組織的に対応できる機会は十分に存したものということができる。そうであるとすれば、本件更正処分等に係る税務調査手続をもって、直ちに違法又は不当なものとまではいうことができない。
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  裁決への疑問

 裁決の要旨は、調査官の態度・発言を事実として認定したうえで、その違法に対し納税者側は組織的に対応できる能力があったのだから違法とまでは言えない、したがって更正処分も違法というまでには至らないということです。
 川崎汽船は裁判に持ち込まなかったので裁判ならどうなるのかは一概に言えませんが、この裁決はいかにも当局よりの情けないものといえます。
 まず、暴言・誘導の事実は否定できないほどのものであったということ。
 次に明らかに職権乱用にあたる行為を認定していること。
 裁決では「担当従業員に調査担当者の認識に添った内容の確認書を作成させたり」と事実を認定しています。これは証拠となる文書を偽造するように持ちかけた行為であり、義務のないことを強要した行為で、公務員の職権乱用にあたります。
 また、「一部客観的事実に反する内容の回答を引き出した」としていますが、これは誘導により事実と違う課税要件を作出するための行為といえます。課税要件を隠すことは脱税ですが、逆にありもしない課税要件を作って税金を支払わせるのは国が不当利得を得るための詐欺です。
 これは公務員の職権乱用にあたるのみならず、詐欺も成立する犯罪行為です。
 したがって、著しい違法調査であり、京都北村事件の判決に照らせば更正それ自体を取り消しの対象とすべきものといえます。

  密室ならどうなる

 ところで裁決は別の視点も盛り込んでいます。調査は密室で行われたものではなく、調査を受けた川崎汽船は大会社で、組織的に違法な調査に対応できるはずだ、それをしなかったのは会社側にも責任がある、だから違法性は解消されるというのです。
 大会社でも組織的に対応できないほどの「暴力性」こそが事実認定されるべきですし、調査官の行った威圧や誘導行為はどこでやられても行為自体が違法であり、場所が密室ではなかったとか、相手が大会社だから阻却されるというものではありません。
 そもそも隣の会議室にいた社員の証言で威圧の事実を認定せざるを得なかったわけで、これが密室で行われていれば、事実を否定する裁決になることを予感させるものです。
 それほどこの裁決は実に陳腐な論理を展開しているわけです。
 こんなことがまかり通るのであれば、納税者一人に対して密室で調査官が威圧や暴言で調査を行った場合、事実は確認できないという裁決になりかねません。

 さて、当事務所で耳にした「国税をナメんじゃねえ」との威圧発言はどうでしょうか。
 暴力団かと思わせる発言をうけた納税者は、頭が真っ白になり、何かものをいえる状況ではない状態になっています。これは納税者の人格を明らかに踏みにじっており、社会通念を逸脱する違法行為だと考えます。
 川崎汽船事件といい、今回の相談といい、とんでもない税務調査が平然と行われていることに驚く次第です。税務調査時の録音がいよいよ不可欠といえます。

 税務当局はどう考えているのでしょうか。単なる一調査官の飛び跳ねた行為とは思えません。新年を迎えてもう少し品位のある税務行政とするよう組織を挙げて対策を取ってほしいものです。