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  特別公演は 「憲法と租税法」
   青山学院大学法学部 木山泰嗣教授

 東京税財政研究センターの第22回通常総会が、8月24日御茶ノ水の全労連会館で開催された。
総会は1年間の研究活動の報告につづき、青山学院大学法学部木山泰嗣教授による「憲法と租税法」と題した特別講演が行われ、「憲法」が安倍内閣の「安保法制」で大きく歪められようとしている時代に、この「憲法」と税財政研究センターの研究課題である「租税」との関係を解明していただいた。

  総会で挨拶する永沢理事長
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 <東京税財政研究センターの採択された方針の一部を掲載 >

はじめに
 戦後70年の節目の年、日本は憲法に規定された国民主権、平和主義、基本的人権の三原則の何れの分野でも大きな危機に立たされています。とりわけ世界でも類を見ない憲法9条を柱とする平和条項は、戦後日本の平和を築き、国際的評価を得てきましたが、2014年7月1日、安倍内閣による「集団的自衛権行使容認閣議決定」に始まるいわゆる「戦争法案」は2015年7月16日、自民・公明により強行採決されました。国民の圧倒的多数が「理解できない」「憲法違反」「成立を急ぐ必要はない」という中で、これを無視するという極めて強権的なものです。
 しかし、一方で国内各地では60年安保反対闘争を彷彿とさせるような世代や階層を超えた国民世論の廃案に追い込むための反対運動が盛り上がっています。
 安倍政権の近年の政治姿勢は、「特定機密保護法施行」「武器輸出3原則撤廃」「TTP促進」「原発再稼働決定」「原発輸出促進」「米軍基地・沖縄辺野古移設強行」「東日本大震災・福島原発事故の復興遅延」「中・韓関係改善遅延」等々の一連の政治課題にみられるように、そのことごとくが国民の意思を無視し、強権的、独裁的色合いを強め、国内外からの不信、危機感を醸成し、日本の国際的信頼をそぎ落とすものとなっています。安倍政権の暴走は国民との矛盾を急速に激化させています。

税財政の特徴
 安倍政権のこうした政策は、税財政の異常な状態をますます深刻なものとし、そのための負担を中小・零細事業者、低所得者、老人、子供へしわ寄せし、社会保障の削減を拡大し、財政再建の破綻をいっそう推進することが予測されます。
 「戦争法案」を通そうとする下で、歯止めのない軍事費の膨張が予想され、「26中期防衛計画」にみられるように、すでに始まっていて、「消費税増税分は全て社会保障に」などの公約は空語となり、「国民生活切捨て」へ暴走しつつあります。
 宮内義彦オリックス会長の55億円を筆頭に年間報酬1億円を超える大企業の役員は400人を超えます。その一方で、非正規雇用者は1,962万人と過去最多。年収200万円以下は276万人増え1,090万人に、生活保護受給者は200万人を超え増え続けています。地方にとどまらず、廃屋は近々全国でも3件に1件といわれています。格差の拡大、地方の切り捨ては広がるばかりです。また、労働者派遣法改悪によって非正規労働の固定化が図られようとしています。
 こうした状況下にあって「経済財政運営と改革の基本方針2015」(2015年6月30日閣議決定)ではアベノミクスの誇大な評価をしたうえで、5ヵ年計画となる「経済財政再生改革」を定め、社会保障制度を、儲けの場とする民間市場化により、解体する方向を示しつつ、2017年の消費税率引き上げ準備に入るとする一方、法人税実効税率引き下げを早期かつ継続実施としたほか、所得課税の見直しなど、大企業減税、庶民増税となる税制改革の具体化を目指しています。
 2015年10月5日から施行される「マイナンバー制度」は国の個人情報独り占めにも繋がる極めて問題の制度です。しかも、年金情報の漏えいに見られるように、常にその危険性を抱え悪用される可能性もあります。そうしたことに対する体制も整わず、国民の理解も十分でない中、拙速に実施するという状況は否めず、セキュリティ管理その他の膨大な費用を一方的に国民に押しつける形になっています。
 日本の税・財政の未来にかかわる現在の政治状況を、国民総がかりの運動の中で転換させる必要性が増しています。

税務行政を取り巻く状況
 国税通則法が改正されて3年半が過ぎました。税務調査手続の法制化は、民主国家として当然のことですが、現状の税務調査の現場でこの法律を十分に周知していないと思われる対応が様々に報告されています。しかも、「再調査」規定の改悪や事前通知方法の簡略化など、さまざまな形で改正通則法の骨抜きを図ろうとしています。
 税務調査は調査手続の法制化後、調査件数の約30%ダウンに対して、従来の申告水準を高めるコンプライアンスを確保するためとして「接触率」強化策がとられ、「実地調査以外の手法」による調査(ハイブリット調査等)を従来の倍近くまで拡大しています。改正通則法との関連で、法律的にも多くの問題を含んでおり、引き続いて研究、問題提起をしていく必要があります。
 税務の職場は、職員管理の強化、統括官の業務が大幅に拡大され、「統括官への昇任拒否」職員が現れる状況です。職員への画一的管理がかつてなく強まり、膨大な法律、通達、指示文書などをすべてオンラインで送付するため、運営方針の不徹底、意思疎通の不足、調査手法や法律の研修も限られたものとなって、調査能力の低下を指摘する声もあります。

税理士会の自主自立化を求めて
 現状の税理士会は、弁護士会等に比較してもその保守性は極めて高く異型のものとなっています。総会での君が代斉唱はその典型です。安倍政権の超保守主義政治のもとで、その傾向は政治のみならず教育などあらゆる面で拡大しており、税理士会はその先端を行っています。
 納税者の権利・利益を守る立場を放棄して一方的に大勢に順応する方向が強まっていることが予想されます。税理士会の自主、自立に向けて発信を続けていく必要がますます重要になっています。

おわりに
 今私たちは、戦後70年の憲法に守られた平和日本から「戦争をする国」へと変わろうとする歴史の岐路に立たされています。税制は、ひとたび戦争となれば「戦争のための兵器」とされる宿命を持っています。こうした状況の下では、中小業者、低所得者、弱者の権利・利益を守り、納税者権利憲章の制定をめざし、国民生活擁護のためのセンターの活動、研究、提言は一段と重要性を増してきます。センターの一層の活動と飛躍を追求します。

<当面の事業>
(1)第53回公開講座
     2015年11月6日   於.全労連会館
     ・平成27事務年度の事務運営に関する問題
     ・マイナンバーの実務対応
     ・税務調査関係
(2)第54回公開講座
     2016年 2月5日   於.全労連会館
     ・平成27年確定申告関係
     ・その他未定

「滞納相談センター」設立総会
     2015年9月16日